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大阪高等裁判所 昭和44年(う)230号 判決 1969年6月05日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人大槻龍馬、谷村和治共同作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は要するに、原判決は、原判示一の売春をさせる契約をした各所為と同二の売春を行う場所を提供することを業とした所為の各罪を併合罪の関係にあるとして処断したが、本件のような事案にあつては、一の売春をさせる契約をした罪は、二の業としての場所提供罪に吸収されるか、あるいは一個の行為にして数個の罪名に触れる場合として刑法五四条一項前段により一罪として処断されるべきであるから、原判決には法令の解釈適用を誤つた違法がある、というのである。

そこで判断するのに、原判決が原判示一の売春防止法一〇条一項違反の各罪と、同二の同法一一条二項違反の罪とを刑法四五条前段の併合罪の関係にあると認めて処断したことは所論のとおりである。ところで、本件は、被告人が、(一)昭和四三年四月二〇日頃から同年八月一三日頃までの間五回にわたり、自己の経営する料理店において五名の婦女を雇い入れるに際し、同女らとの間に売春をさせることを内容とする契約をし、(二)右各契約後同年九月三日までの間右五名の婦女が多数回にわたり反覆して売春をするに際し、同料理店客室を売春を行う場所として提供することを業としたものである、というのであつて、右(一)の罪は、人に売春をさせることを内容とする契約を締結することによつて成立し、場所の提供までを必要としないのに反し、(二)の罪は反覆継続して行う意思のもとにその場所を提供することをもつて足り、売春をさせる契約を締結することを要しないのであつて、両者の保護法益は売春を助長する行為を禁止しようとする面で相互に関連するが、その手段、方法を異にし、別個の要件を規定したものであり、各別に存在しうると解されるから、本件のように人に売春をさせる契約をした者がたまたまその経営する料理店の客室を売春する場所として提供したとしても、売春をさせる契約をした罪が業としての場所提供罪に吸収されるものではない。また、売春をさせる契約をした罪は、人と契約することによつて成立するのに反し、業としての場所提供罪は、契約後場所を提供した期間中継続するものであつて、成立の時期を異にし、行為の重なり合いがないから、社会的事実として一個の行為とはいえず、一所為数法の関係にも立たないと解すべきである。

更に所論は、人に売春をさせる契約をした罪と管理売春との関係においては前者が後者に吸収されるところ、もし人に売春をさせる契約をした罪と業としての場所提供罪とが併合罪の関係に立つとすれば、本件のような事案の場合、懲役一〇年六月以下及び罰金三〇万円以下の範囲内で処断されることとなるが、これは、売春防止法の違反形態として最も悪質といわれる管理売春をさせる契約をした罪を吸収して懲役一〇年以下及び罰金三〇万円以下の法定刑の範囲内で処断されるべきことと科刑上均衡を失する、と主張する。しかし同法一二条の管理売春が成立するには、人を自己の占有もしくは管理する場所又は指定する場所に居住させ、これに売春させることを業とすることを要するから、人に売春をさせる契約をした罪が吸収されることは所論のとおりであるが、他面管理売春罪は場所の提供を要件とするものではないから、売春の業態によつては管理売春罪の他に場所提供罪が成立するというべきである。尤も、管理売春罪と場所提供罪とが一所為数法の関係に立つ場合は、刑法五四条一項前段により結局重い管理売春罪の法定刑の限度で処断されることとなつて、本件のような事案の場合、その処断刑が、売春を助長する行為のうちで最も悪質といわれる管理売春罪の法定刑よりわずかに重くなるので、その意味でやや不均衡な結果になるが、これは他の事例についても往々ありうることで(たとえば、二名の婦女に対する管理売春が管理売春罪の一罪であるのに反し、一名は管理売春であるが、他の一名はいわゆる通い売春で管理売春の類型に入らない場合は、管理売春罪と場所提供罪あるいは更に売春をさせる契約をした罪との併合罪となり、科刑上不均衡を生ずる。)、犯罪の競合に関し現行刑法上やむをえないものといわなければならない。

したがつて、原判決には所論のような法令の解釈適用の誤りはない。論旨は理由がない。

よつて、刑事訴訟法三九六条により主文のとおり判決する。

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